群馬大学工学部 機械システム工学科
エネルギーシステム工学講座 第2研究室

小保方 富夫

Overview of Energy 2nd Laboratory,
Department of Mechanical System Engineering,
Gunma University
 
Tomio O BOKATA

可視化情報 Vol.21,No.82(2001-7),pp.35-36


1.はじめに

地元出身の史家羽仁五郎は桐生を日本のフィレンツェとよんだ.また,桐生は徳川家康の命によって作られた日本で最初の工業団地といわれ (1),町の中央を通した用水の両側には水車と織機 2410台を持つ工場が配置されていたとのことである.いずれにしろ,東京を中心にした約80kmの半径上には,富岡,高崎,前橋,伊勢崎,桐生,足利,佐野,小山,結城などの絹産業都市が並んで「日本のシルクロード」を形成し,その中心の工業と商業の町が桐生市である.ここに桐生高等染色学校が創立されたのは1915年であり,今年で86周年となる.その後,桐生高等工業,桐生工専を経て1949年に群馬大学工学部となった.

工学部には現在7大学科があり,入学定員は昼間・夜間主コースを合わせて約630人,大学院生も含めると約3200人が桐生キャンパスに在籍している.機械システム工学科にはエネルギーシステム工学,材料システム工学,メカトロニクス工学の3大講座があり,それぞれが4研究室体制をとっている (2).各研究室及び工学部の詳細,既発表論文リスト等は研究室のホームページから参照いただきたい http://www.me.gunma-u.ac.jp/ene2.

2.研究室の歴史と構成

エネルギー2研は,工学部発足時の熱及熱機関講座(浅沼強教授),学科増で改称された熱工学講座(倉林俊雄教授)の流れをくみ「熱研」 (3)と称しているが,研究分野は時代とともに変化するものとして 1989年の改組時より,特定の名称を付けず番号で呼ぶことになった.平成12年度当初の研究室構成は,小保方富夫教授,志賀聖一助教授,石間経章助手,中村寿雄技術専門職員であった.石間助手は年度途中からエネルギー4研の助教授に移動したが,ここでは2研に含めて紹介する.

先輩と現教官の従来研究,卒業生と一緒に進めた今までの主な研究例を紹介すると,

2.1 内燃機関の吸排気管効果・シリンダ内流れの解析

慣性効果と脈動効果の解析が諸先輩の顕著な業績であり,四サイクル機関について学位論文をまとめたのが浅沼強教授(後に東大宇宙航空研究所長),二サイクル機関で学位を取得したのが澤則弘助教授(後に茨城大教授)である.研究室の第一回卒業生が八木静夫博士(本田技術研究所社友)であり,この研究の延長上にマン島オートバイレースの優勝があり,さらにホンダミュージックと呼ばれた F1エンジンや世界で最初にマスキー法達成したCVCCエンジンがある.エンジンにおける諸現象を実験で解析し,さらに実験の得意な卒業生を輩出することが本研究室の伝統となっている.東大宇航研で浅沼・谷田研究室の助手をしていた小保方は,吸排気管と燃焼室内流れのレーザ計測で学位論文をまとめ,同時に機械学会論文賞を授与された.倉林教授の退官後に4研助教授の小保方が2研に移動し,浅沼教授の孫教授を拝命したのは偶然とはいえ不思議な因縁である.二サイクル機関の掃気過程の可視化,レーザ流速計(LDA)と粒子画像流速計(PIV)による計測と数値シミュレーション(西安交通大学出身の楊笑風博士,現在本田技術研究所),シリンダ内軸方向流速をヘッド側から測定する軸流速度LDAの開発とエンジン応用実験が修士学生の武田親士君らによって行われるなど,関連研究は継続している.

2.2 液体の微粒化機構の解明と燃料噴霧測定法の開発

群馬大学は「液体の微粒化」の研究については世界の中心であり,一時期は四つの研究室が深く関わっていた.その「かなめ」が倉林俊雄教授であり,回転噴孔の微粒化特性で学位を得,国際液体微粒化学会会長等を歴任し燃料協会賞(学術部門)を受けた.その右腕として活躍し,燃料液滴の挙動解析で学位を得たのが柄沢隆夫助教授(後にエネルギー4研教授)であり,特に液体窒素凍結法による燃料噴霧の測定法は一種の絶対測定法であり,レーザ計測の妥当性を検証する基準器とも呼べるものである.群馬高専の高橋秀夫教授は志賀聖一助教授と共同研究を続け,ディーゼル噴霧の構造解析で学位を取得し,日本自動車研究所の吉田祐作博士はガスタービンの噴霧燃焼解析で学位を得た.両氏とも熱研出身である.

2.3 エンジンの混合気形成と燃焼

志賀助教授は「火花点火機関における混合気形成と点火・燃焼に関する基礎的研究」で日本機械学会エンジンシステム部門の平成 12年度研究業績賞を受けるなど本研究分野の先導的でもっともアクティブな研究者の一人である.ガソリン機関に限らずディーゼル機関の燃焼研究にも熱心であり,酸素富化給気によるディーゼル燃焼改善でフィリッピン留学生のマチャコン博士,燃料組成と燃焼反応速度の研究で亀岡敦志博士(日本自動車研究所)を指導した.燃焼噴霧の位相ドップラー法(PDA)計測では小山哲司君(司測研),上原宏一君(東京電力)が温度と粒径測定の可能性を検討した.学振研究者の劉正白教授(大連理工大学)はKIVAシミュレーションモデルを改良し,壁面衝突噴霧を解析した.

2.4 レーザ計測による噴霧流,混相流の流動特性

石間助教授が中心となって進めており,「燃料噴霧粒径分布のLog-Hyperbolic関数による評価」で平成10年度液体微粒化講演会優秀講演賞を受けた.また,日本学術振興会の援助でツールーズ流体力学研究所に派遣されて実施した固気混相流の実験的解析の共同研究成果はJFM論文に採択された.本年7月より若手研究者枠で再度ダルムシュタット工科大学に派遣が予定されるなど,国際的に活躍している.ディーゼル噴霧の特性評価については細谷肇博士(ユニシアジェックス),大連理工大学より留学した隆武強博士(自動車研究所)が予混合ディーゼル機関用の傘状噴霧を解析し時間分割評価法を提案した.


3.現在の主な研究

現在の所属学生は博士3,修士10,学部13の合計26名であり,他に西安交通大学の劉伝李助教授,エジプトのカイロ大学講師ワリッド博士が外国人研究者として滞在している.

3.1吸排気管効果・シリンダ内流れの解析

これは2.1に示した吸排気管効果解析の延長上の研究であり,計算と実験により天然ガス圧縮用の多段高圧往復動圧縮機の配管系と圧縮室構造の最適化を進めている( D2:西川剛弘,B4:中島大輔).

3.2 新型エンジンの混合気形成と燃焼

エンジンやその構成部品に新機軸を導入した各種機関の燃焼特性を調べ解析している.

火花点火機関では,燃焼室内燃料直接噴射のガソリン機関について,噴射率と燃焼・排気特性が調べられ(M2:早川栄治,B4:松浦崇史),学振研究者イスマイル博士(ウズベキスタン)と進めたLDA瞬間流量計による燃料噴射率のオンライン測定とPDAによる噴霧評価法を関連させ,高圧スワール噴霧が評価された(M2:助名亮一).LDA瞬間流量計は群馬県の支援を得て商品化を計画中である.天然ガス2ストローク火花点火機関の成層燃焼研究も実施され(M2:前城剛,B4:中島邦明),急速圧縮機により天然ガス成層燃焼特性が調べられている(B4:渡邊裕行).アトキンソンサイクルガソリン機関についてもほぼ10年の実績に基づいて研究を発展させている(M1:宮下洋一).圧縮着火機関では, 予混合ディーゼル機関における傘状噴霧流の流動特性が可視化とPDA測定で解析され,傘状噴霧を用いた燃焼実験ではNOxと煤の両者が低減できる領域があることが確認され(B4:松田智之,M1:江黒陽介),傘状噴霧と燃焼特性がシミュレーション(劉伝李助教授)されている.マチャコン博士の関係したバイオマスディーゼルの燃焼実験も継続されている(B4:星野剛志).

3.3 液体の微粒化機構の解明と燃料噴霧計測

矩形ノズルからのディーゼル噴霧が PDA解析され(B4:天神淳史),スワールノズルの噴霧特性が凍結法で測定された(B4:松井元).ジェットエンジンに関連して,エアブラストアトマイザーの改良(M1:松本裕),衝突微粒化(M1:許成軍)の研究が始められたところであり,ガス燃料によるボタン型マイクロガスタービンの研究も検討されている.

3.4 レーザ計測による混相流の流動特性

固液混相流の流動特性と粒子の分散特性がPDA,LDA,PIVで求められている(エジプト留学生D3:イスマイル,B4:新井俊道),噴霧を模擬した液気混相流についても解析が予定されている(外国人研究者:ワリッド博士).

3.5 物体周り及び内部流れのレーザ計測と数値予測

非等間隔ファン後流の乱流特性がLDA測定され(M2:鈴木潤平),直方体周りの乱流構造は二次元LDAで解析され(M2:野村友和,M1:神谷年男,B4:佐賀浩二),並行して実施されている数値計算の検証に使われている.同様な検証実験として車輪周りの水滴飛散状態が可視化観察された(B4:園田真之).流体機械全般への応用を目的とし,物体周りの流れを物体に組み込んで内部から測定するポータブルLDAも検討されている(D2:鈴木和彦).

4.おわりに

熱研の昔から,研究室行事が多いのも本研究室の特徴である.春の新歓コンパ(花見とバーベキュー)とハイキング(吾妻山,市内), 夏の北軽井沢輪講合宿(2泊3日), 客人の歓送迎とか何かと理由をつけたコンパとカラオケでストレス発散・人格形成・心の交流を図り,英会話と国際化も熱心である.研究室に配属された当初の学生は後悔の連続のようであるが,卒業時になると何とか一人前になれそうだと自信を持つ学生も多い.物作りと実験技術,生活態度までも鍛えてくれる中村さんの貢献も偉大である.写真は今年の謝恩会風景である.最後に実験を一緒に進めてくれた多数の卒業生,ご支援を頂いた関係諸企業各位に感謝の意を表し,結びとします.

参考文献

(1) 佐羽秀夫,徳川家康と桐生新町,紫会ニュース(学科同窓会誌),21(1998),pp.6-7.

(2) 小保方富夫,わが研究室,内燃機関,32-401(1993)84-88.

(3) 青木富寿雄,わが研究室,内燃機関,16-192(1977)89-92.

写真1:平成 12 年度研究室一同



写真2:平成 18 年度研究室一同