わが研究室

群馬大学工学部 エネルギーシステム工学講座 小保方・石間研究室
(内燃機関32巻3号,No.401,1993.3, 山海堂,84-88,修正転載)


1. はじめに
 関東平野の西北端,日光及び足尾山地を源とする渡良瀬川と桐生川が合流する桐生市に群馬大学工学部はある.
交通手段は東武の急行電車で
浅草から100分, 車なら東北自動車道の佐野藤岡から60分である.桐生市は古くから
の絹織物の産地であり,工学部の前身の桐生高等染織学校が
開設されて以来,1990年に創立75周年を迎えた.
その前年に博士課程設置,
工業短期大学部の発展的解消と工学部改組があり, 現在は7大学科, 総学生募集定員
716名の大世帯となっている.

 機械システム工学科にはエネルギー,材料,メカトロの3大講座があり,それぞれに4研究室が所属している.
エネルギー大講座の構成は
: 白井紘行教授・田部井勝稲助手・佐藤淳助手(流体)
2研: 小保方富夫教授・志賀聖一助教授・石間経章助手(熱・流体),
3研: 新井雅隆教授・天谷賢児助教授・斎藤正浩助手(原動機),
4研: 柄沢隆夫教授・稲田茂昭助教授(熱・伝熱),
であり,研究室毎に研究面での強い色分けはなく,熱と物質の移動と変換に関する問題を扱っている.

  なお,時代の変化に迅速に対応して教官と専攻分野を変えるのが大講座であり,括弧内に示した旧講座名は
使用せず,研究室番号で呼ぶことなっている.学外からみて,また内部からも何をやっているのか分かりにくい
名称であるが,何をやってもよい組織と考えると単純明快である.

2.エネルギーシステム工学第2(小保方・石間)研究室

工学部改組前の工業短期大学部2教官が移籍して新しく第4研究室でき,その後小保方が第2研究室に
移動した.従前の教官単位の研究習慣が引き継がれ,内部は別々に運営されている.これが
第2(小保方・石間)研究室と表記した理由である. 
スタッフは,小保方教授と平成6年度に新任の石間経章助手の二人で研究指導から機械加工,さらに
掃除までの雑用にてんてこまいである.特に平成9年1月中旬までは石間助手がフランスのツールーズ
流体力学研究所に日本学術振興会の派遣研究者として留学したため,所属学生は部品注文からコピー
とりまでお手伝した.
平成9年の所属者は以下の通りです.
@大学院工学研究科博士前期課程(修士),機械システム工学専攻
 3月卒業 上原宏一(東京電力),太田祐司(シナノケンシ)
  2年生 新井幹彦(群馬大学),小林一彦(群馬大学),
 武田親士(社会人,電機計測),
 劉一凡(中国,瀋陽大学),崔惠(中国,西安理工大学)
 1年生  高久和彦(社会人,桐生工高),柴谷高彰(高崎),
A機械システム工学科学生
  4年生卒業研究生 佐藤淳一(岩手),下川原敬(沼田),
 沼尾敬廉(大平),加藤竜也(安中 )寺田泰彦(浜松),
 中村晋(群馬高専),
須藤雅宏(足利)
BBコース研究生
  3年生 持田 武(渋川)  2年生  古川和茂(岩手) 
C日本学術振興会招聘研究者
  劉 正白 博士(大連理工大学内燃機研究所 教授,  現在エアランゲン大学)
  Dr. Murad Ismailov(ウズベキスタン,モスクワ工業大学助教授)
D大学院外国人研究生(国費留学生)
  楊 笑風 博士(西安交通大学博士課程修了,現在金沢大学助手)
  Ismail Mohamed Youssef(エジプト政府給費留学生)
  いずれにしろ小規模(とも言い切れない人数ではあるが)で家庭的な雰囲気を大事にした研究室で あり,大学の国際化にも対応している.歓迎,進路決定,卒業のおでん・すきやきコンパが恒例であり, 卒業した先輩もしばしば訪れ,差入れしてくれる.また夏は群馬大学北軽井沢研修所(田辺山荘) 冬は草津セミナーハウスの合宿研修で地獄と極楽を体験する. 研究分野は,レーザ・ドップラー流速計(LDA)を中心とした流体の計測と制御,シミュレーションであり, 対象は主として内燃機関の内部流れである. 以下に研究設備と研究内容を紹介する.

3. 主な実験研究設備
狭い研究室に歴史的な実験装置から最新の計測機までが乱雑に置かれている.先生によると全部動く
とのことであるが結果的に非能率の元となっているような気がする.短期借用品まで含めると研究室
ホームページ(表1−表4)に示した実験研究設備があり,次章の研究課題では各項目の記号を参照する.

4.主な研究課題
4.1 噴霧流と周囲流の流動特性,噴射率と噴霧特性の関係(1ー3)
 ディーゼル機関には厳しい排出物規制が課せられており,規準の達成は非常に困難な状況にある.
ディーゼル噴霧の流速と粒径の空間的時間的分布を正確に知ることは,燃焼解析とこれに基づく燃焼室
設計に有効である.このような研究目的で数年前より非定常ディーゼル噴霧の流速測定をレーザ・ドップラー
流速計(LDA)及び位相ドップラー流速計(PDA)を用いて行ってきた.しかし非定常噴流の測定例は
少なく,また定常噴流とは乱れの評価法が異なり比較が困難であった.このため,定常噴霧流を非定常の
評価法で見直し,非定常噴霧流も含め,流速・粒径測定を行いデータ処理している.博士修了の細谷肇
(ユニシアジェックス)の主テーマであり,継続課題となっている.
 また,まったく同様の目的と計測法でエアーアシストガソリン噴霧や高圧直噴ガソリン噴霧流を解析し,
LDA瞬間流量計を併用して噴霧に対する噴射率波形の影響を解析している.
担当はDr.Ismailov,M2の崔,中村(4年)である.

4.2 噴霧流と空気流の相互作用
予混合ディーゼル燃焼の基礎としてディーゼル噴霧と押し込み渦流との関係を求め,燃焼室内に噴射された
燃料が空間的にどのように分配されるかを可視化と成分計測,LDA測定で求めている.
可視化4サイクル機関を使用しており,M1の柴谷,4年の寺田が担当であり,大連理工大学から留学し,
博士を修了した隆武強(機械技術研究所)が協力している.また,近く予混合ディーゼルの燃焼実験も
開始予定である.

4.3 燃焼室内流れと燃焼の相互作用(4,5)
火花点火機関の燃焼室内流れにおいて,点火後の混合気が実際に燃焼するときは,既に燃焼した部分からの膨張流を
受け駆動運転時の流れと異
なり,これがまた次の燃焼部分に影響することが予想される.このような燃焼中の流れとその
乱流特性を火炎位置と対応させながらLDA測
定し,解析している.実験は群馬大学地域共同研究センターのエンジン
実験室に置かれた試験用エンジンで行われ,M1柴谷,寺田(4年)が担当している.

4.4 シリンダ内流れの数値予測と検証(6,7)
 近年エンジン内流れと燃焼の数値シミュレーションが大変盛んになっている.この種の数値計算には実測
による検証が不可欠である.このため,なるべく簡単な実験装置を用い,単純な流れを計算とLDA計測,
さらに可視化により調べる.現在は透明シリンダ内のピストンによるかき上げ渦,傘状噴霧流,シリンダ内
定常流・非定常流を測定し,ビデオで可視観察するとともに,PIV画像処理による面的速度測定を行った.
また実験と同一条件でEWSにより数値計算を行っている. 担当はM2の新井と劉で,KIVAUは劉教授が
指導している.関係基礎実験は楊博士,M2の武田と4年の加藤が担当している.

4.5 ポータブルLDAの開発と応用(8)
半導体レーザは赤外光で出力,波長とも不安定であるが,小型高出力で電源負担が軽い長所があり,LDA
のポータブル化には不可欠である.数年前より試作を続け,最近実用化された可視光への変更によりほぼ
実用段階となった.車体周り流れの計測への応用をM1高久と佐藤(4年)行っている.慶應大学(前田・
菱田研究室)開発のワンボード信号処理機Invent社DSPボード)との組合せで簡単に運搬可能であり,
学内外への出張測定サービスも予定している.
4.6 多次元LDAの実用化(9,10)
 アルゴンレーザからの2色光を光ファイバを用いて差動型と参照型で組み合わせ,シリンダ内流れの多次元的
測定を計画している.  これも調整がめんどうで太田(M卒業),M2武田が苦労している.
 また,機関内のように強い変動流場において,時系列信号から乱流特性,特に空間スケールを精度よく求める
ことは困難であり,2点で測定したLDA信号の空間相関からスケールを得る方法のエンジンへの適用を検討
している.
4.7 PDA/LDAの信号処理と特性解析(11)
 手持ちの簡単な光学系に位相ドップラー用受光装置と信号処理機を組合せ,噴霧粒径やキャビテーション
気泡径の測定を東京大学(長島研究室)と共同で実施した.M2の小林が担当している.
最適検出方法を解析プログラムSTREU,LSAで求めながら予備実験を進め,ドイツ・エアランゲン大学
(Prof. Durst, Prof. Tropea) からアドバイスを受けている.
4.8 粒子拡散特性の解析
 固体・液体粒子または気泡の水中及び空気流への拡散特性をLDA/PDAを用いて測定している.
フランスのツールーズ流体力学研究所とも共同で研究している.担当はM2の小林,4年の須藤,下川原である.

4.9  排水浄化・廃棄物処理に関する評価試験
  高性能排水浄化システムについて,フィールドでの実用化実験と併せ,試験条件を定めた研究室内評価実験
を行っている.担当は4年の沼尾と3年生の持田である.
 なお,群馬大学地域共同研究センターの行事で、社会人向け高度技術研修「レーザ応用計測コース」が毎年
夏休みに開催され,本研究室を含めエネルギー講座で全面的に応援し,実習に協力している.平成9年度も開
講されるので,ぜひご参加下さい.

5.まとめ
群馬大学小保方・石間研究室では、国内外の多くの大学と共同し,また企業からの協力も得て,レーザ応用
計測を中心としたエンジン研究が行われている。「辛抱9割,残りの1割が本人の熟達と幸運」,「努力
に比例して成果はでない, しかし遊んでいては何も得られない」,「どんなことにもめげない根性を体得して
欲しい」などがLDA実験に関係した先生の口癖である.赤,青,緑の光の飛び交う薄暗い実験室に生活
していると,世の中一般が明るく楽しく見えてくる.苦労が多いとそれだけ楽しいことも多くなるようである.
参考報告
1) 橋本ほか3名:ディーゼル噴霧と導入空気流の乱流特性, 自動車技術会論文集,No.45(1990),15
2) 細谷・小保方:高速噴霧流と周囲流の流動特性、日本機械学会論文集B,58-548(1992), 1252
3) 隆・石間・小保方,レーザドップラー法によるディーゼル機関用傘状噴霧流の特性解析
  (第2報,LDA法による速度分布の解析),日本機械学会論文集B,62-595,(1996),1260
4) Obokata ほか3名:Laser Doppler Anemometer Measurement of Gas Flow  in the Wedge type 
   Combustion chamber of a Two-Cycle Spark Ignition Engine, Proc.IME, No.C48/88(1988), 213
5) Obokata ほか5名:LDA  Characterization  of Gas Flow  in a combustion chamber of a 
   Four-Stroke S. I. Engine SAE Paper No. 920519
6) Obokata T., Okajima A.: Roll-up Vortex on the Reciprocating Piston in a Cylinder, 
   Proc. 6th. ISFV(1992), 594
7) 石間・竹内・小保方:走行平板上流れの搭載LDAによる測定,日本機械学会講演論文集,
    No.95-10(U),(1995), 251
8) 武田ほか4名:一入射光参照光型LDAによるシリンダ内軸方向速度の測定,日本機械学会論文集
    B,61-592,(1995),4498
9)小保方ほか2名:2点相関測定用アダプタ付光ファイバLDAプローブ、日本機械学会論文集B, 55-513, 
    (1989), 1490
10)小保方:レーザ計測のエンジンへの応用、自動車技術,Vol.50,No.4(1996),39

(原稿修正:1997.11.7)

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